見上げると、霞む青の空に満開の美しい薄紅の花。
春風に煽られた枝がゆらゆら揺れれば、真っ盛りの桜の花たちもまた、さわ、と微かな音とともに「こちらを見て」と揺れて、語りかけてくるようだ。
ただ何ということもなく、美世と清霞は桜並木を眺め、歩いていた。……花が、美しかったから。
「綺麗ですね」
桜に目を奪われて、美世にはそんな月並みな感想しか言えない。
「……お前に似ている」
ふと清霞がこぼした返事に驚き、美世は目を丸くしながら隣を歩く婚約者の顔を見上げた。
「に、似ているんですか?」
「ああ。似ていて――美しい」
桜の花を見上げていた清霞の視線が美世のほうを向き、その切れ長の目元が和らぐ。その瞳を見ていると、どうにも照れが湧いてきてしまい、頬が熱くなった。
「そんなこと、ありません。旦那さまのほうが……」
美世が口ごもるのと同時に一瞬、強く風が吹く。淡い気恥ずかしさは風とともに流され、二人はしばし心地の良い沈黙に身をゆだねた。
再び、桜の花を仰ぐ。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。願いを、美世は自然と口にした。
「また、見に来たいですね」
「ああ。来年もまた来よう。再来年も、その次も」
思いは同じ。二人は心を重ねてまた顔を見合わせ、そして笑いあった。